たった一枚のキャンバスに

研究者を目指す博士課程の学生によるエッセイ。ひとつよしなに。

直感を磨くもの 小林秀雄対話集 ー小林秀雄

 数学者・岡潔と文芸評論家・小林秀雄の対談を綴った『人間の建設』を読んで以来、小林秀雄が気になっていた。

 本屋でふと目に入った、小林秀雄と各界の第一人者との対話集『直感を磨くもの』を読んだ。その中で、理論物理学者である湯川秀樹の発言において、まさに今の自分の考えを代弁する一文があったため、ここに記す。

湯川氏「実際私どもでも生き甲斐を感ずるのは、成功するか失敗するかわからんことをやっておって、たまに成功することがあるからですね。これが予め成功するに決まっておったら興味も何もない。それは確かです。」

この「私ども」とは科学者を指している。

 この考え方は私の人生に対する姿勢そのものである。将来について思い悩む中で思い至った漠然とした気づきが、タイムリーにも数十年前の対話集にはっきりと現れ、目を見張った。

 研究者の卵でしかない私であるが、天才と称された科学者の感じる生き甲斐と同じものを感じ取っていたというのは、少し誇らしく、勇気付けられた。